白昼夢、或いは全部勘違い

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ねぇ、愛を証明して?

 

にいちゃん (Canna Comics)

にいちゃん (Canna Comics)

 

 

(1ミリたりともネタバレが許せない人は読まないほうが良い。)
はらだ先生の「にいちゃん」を読んだ。
ボーイズがラブしている漫画だ。
ボーイズなのかラブなのかは議論の余地があるけれど。
衝撃的、と言って良いのか。
話の流れが予想もつかず、翻弄された気持ちだ。
相当に読み手を選ぶ話だとは思う。
購入時に年齢確認はされなかったが、汁とか粘膜とかあるので、あまり子どもは読まないほうがいいんじゃないかなあ。


「ねぇ、愛を証明して?」は本書の帯に書かれていた言葉。
続けて、「ふつうってなに」、「まともってなに」と綴られる。
なかなかにハード、というか倫理的に問題のあるテーマを扱っている作品だ。
私は基本的に、合意!仲良し!救いがある!そう、「同級生」!そういう趣向をしている。メンタルが弱いからだ。
ので、常ならば粗筋を読んでも手に取らない類いなのだけど、HOMMヨのニイマリコさんがお勧めしていたので購入した。


「にいちゃん」は、事件のその後というのか、2つの出来事が、それに関与した人々のそれ以降の人生に長いこと及ぼす影響について具に書かれている。
「こんなことがありました。」、はい、おしまい、ではないのだ。


作中で印象的なコマはどちらも、舞子という女の子のものだ。
一番心に残った台詞は「こいつ被害者ぶっててウケんだけど。」。
「にいちゃん」は被害者であり加害者なのだろう。
被害者だからといって、他の人を同じ目に合わせて良いわけがない。
私に直接降りかかったことはないが、似たようなことは、なきにしもあらずなのだろう。
その中で、景やゆいの存在はなんとなく想像できるが、舞子のような立場の人も、きっとたくさんいるのだろう。
私の友達にだってもしかしたらいたのかもしれない。知らないだけで。
舞子が舞子にならざるを得なかった状況を作り出してしまったことの罪について考えると、私は一層「おじさん」が許せない気持ちになる。


ところで、舞子は女の子だ。
名前の付けられた女の子が出てこない作品も多いBLというジャンルで、女の子が本筋に大きく絡んでくることは珍しい。
でもこれが、男の子だったら全く違う話になってしまうだろうな、と思う。
ボーイズラブ、すなわち「少年愛」の世界の中で、少女である舞子は蚊帳の外であり、愛の対象にもならないことで、物語の核心を突く振る舞いが可能になるのだろう。
対象外の存在が、かえって話を動かすキャラクターとして描かれているのがとても面白い。
思い出すのは「白昼堂々」の省子と、「MO'SOME STING」の十和子。


最近よく「メリーバッドエンド」という言葉を目にする。
そもそもBL作品は「何が起きてもハッピーエンドを基本としており、その過程に何が起きても大丈夫という安心感のあるもの」という論評を2012年ごろの雑誌で見かけた。
それに対して「メリーバッドエンド」は、「他の人から見たら不幸に思えるか、2人だけは幸せ」な結末のことを指している、と理解している。
監禁エンド、心中エンド、行方不明エンド、などなど。
「メリーバッドエンド」は救いだと思う。
どうしてもハッピーエンドを迎えられなかった2人が、せめて2人だけでなし得る唯一の幸せを得るための切実な選択の結果だろう。
「にいちゃん」は、「世間から見て歪であっても2人だけで幸せに生きていこうね」というメリーバッドエンドにもならない。
景は自分にできなかった「両親との和解」をゆいに望み続ける。
成功する可能性はないに等しいのに。
ゆいは、自分たちは間違っていないこと、幸せであることを繰り返し内省する。
それが私には、確信が持てないから、疑っているから、揺らいでいるから、に思えた。
ゆいは「愛を証明」すること、自分の「にいちゃん」への気持ちが本物であることを伝えることに躍起になる。
果たして、ゆいの気持ちは本当に愛なのだろうか。
刷り込みではないのだろうか。
「俺はにいちゃんが好き」と思うことでしか、自分に降りかかった出来事を受け入れることができなかっただけではないのか。
ごく普通に出会っていても、惹かれ合うことは出来たのだろうか。
そんな無粋なことを考える。


ともかく私はこれを読んで「禁断の愛!うふふ!」という気持ちにはならなかった。
「禁断の愛」は、選んではいけないものを選んでしまうことがときめきのスパイスだとして、ゆいと景はそれとは異なる「これしかなかった」切実な関係に思える。
「選んだ」のではなく「選ばざるをえなかった」、これでしか生きられなかった、
そんな関係に、たっぷり砂糖を吐くような気持ちにはなれず、ただ出来ることなら、あの後も彼らが細い幸せを断ち切ることなく生きていってくれることを願わずにはいられない、そんな作品だった。